
[クラシック(室内楽)] 調布国際音楽祭【ヴェルサイユの光と影】
古楽の音楽祭というイメージのある調布国際音楽祭で、異色のコンサートが開かれた。フランス音楽の今と昔を対比させ、ピアノ音楽と古楽器によるバロック音楽がひとつの舞台で展開された。
ひとつの舞台のうえに、ピアノとチェンバロが並ぶ。
なかなか見ることのできない光景だ。
この日のコンサートは「フランス音楽の今昔」という副題からも分かるが、
チェンバロの時代すなわちバロック時代のフランス音楽と、
現代ピアノの時代のフランス音楽が交互に披露された。
最初は、ラモーのクラヴサン・コンセールが、鈴木優人のチェンバロを中心に演奏された。
使用された楽器は、ヴァイオリンとチェンバロとヴィオラ・ダ・ガンバ。
そして演奏順と話が前後するが、第一部の最後にはフルートが加わった形の演奏も行われた。
ちなみに、鈴木優人氏は音楽祭のエグゼクティブプロデューサーとして、全体をプロデュースしている。
このバロック音楽とフランス近代音楽の対比については、プログラムにこう記されている。
《同じパリの中で、しかし別々の時期に生まれた音楽を聴き比べることで、宮廷の時代と民衆の時代、それぞれを生きた人々の心の反映を見付けることができるのではないか》
バロックと対比されたピアノの演奏は、第一部では、ドビュッシーの「ベルガマスク組曲」が演奏された。
「今」というには少々古い感じもするが、現代ピアノの可能性を究極まで追い求めたという意味でドビュッシーはチェンバロ音楽と対比させるに相応しい。
そして意外にも、ラモーのチェンバロの響きとドビュッシーのピアノの響きは違和感なく、交互に演奏されてもまったく自然に受け入れることが出来た。
休憩時間、滅多に見られない光景を目にした。
ピアノの調律師とチェンバロの調律師が同時にステージ上の楽器に向かっている。
ちなみに、この日 使用されたチェンバロはこちら。
Utrecht(オランダ) の Willem Kroesbergen(ヴィレム・クルースベルヘン) という製作者の楽器。

調布国際音楽祭©Lasp Inc.
第二部はピアノで始まった。
壁面には映像が投影されていて、じつに良い雰囲気だった。
曲目はラヴェル作曲「クープランの墓」。
第二部後半はクープランの楽曲が演奏され、それと対比しての「クープランの墓」である。
現代ピアノの技法のすべてが試されるかのような壮大で繊細で挑戦的な作品である。
そして、クープラン「諸国の人々」より スペイン人。
こちらはフランスバロックらしいノーブルでエレガントな、木の温もりを感じるような響き。
古楽器の音に慣れた昨今の聴衆の耳には、こうした宮廷音楽のアンサンブルのほうが、ドビュッシーやラヴェルよりも親しみをもって受け入れられるのではないかという気がする。
近代のピアノ音楽と対比することで、遠い国の遠い時代の宮廷音楽が東洋の日本で当時に近い響きを再現しつつ演奏されることの不思議を、かえって新鮮に噛み締めることが出来たように思う。
見事な演奏であった。
そして、意義のある試みであった。

調布国際音楽祭©Lasp Inc.
鈴木優人
1981年オランダ生まれ。
東京藝術大学および大学院卒、オランダ・ハーグ王立音楽院卒。
指揮者・チェンバロ奏者。
2018年6月30日 調布市文化会館たづくり くすのきホール
鈴木優人:指揮・チェンバロ
森下 唯:ピアノ
アンサンブル・ジェネシス:管弦楽
Photos:Lyuta Ito & Atsuko Ito (Lasp Inc.)
Text : Lyuta Ito